12 煙

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 一正は驚いたような顔で、史郎を見た。しかし史郎に肩を優しく抱かれて、余計に涙が出てくるらしかった。声を上げ、手のひらで顔を覆ってしまった。  史郎はしゃくりあげる一正の肩を撫でながら、視線を空へと向けた。  昇り立つ煙突の煙を眺める。煙の行く先を目で追っていると、史郎の目の奥もジンと熱くなった。 「スミマセン、情けないところを」  しばらくして、一正は顔を上げた。そして、はっとしたように手のひらを見る。 「……あ、いけね」  足元を見てキョロキョロと何かを探している。  手に持っていたタバコを、いつの間にか地面に落としていたらしい。一正は、喪服の内ポケットから携帯灰皿を取り出すと、吸い殻を拾ってそこに入れた。  それから皺の寄ったタバコの箱を取り出して、少々気まずそうな顔で史郎に差し出した。 「ありがとう。でも僕、タバコは……」 「そうでしたか、すみません」 「あ、でも!」 「?」  史郎はニヤリと笑い、 「今日初めての一本、吸ってみようかなー?」  と、断りかけた手で、ひょいと一本のタバコを箱から抜き取った。  一正はきょとんとしている。  タバコを口に咥え、下手くそなウィンクをして微笑みかけた。すると一正も、真っ赤に充血した目を細めて笑った。  一正がライターに火を点けて、差し出す。その手から火を貰った。  思い切り煙を吸い込んでみると、案の定むせて、盛大にせき込んだ。一正が笑いながら、史郎の背をさすった。  風が吹いた。雲と煙突の煙が、輝く太陽の下を流れていく。夏の湿度を帯びた風に、花壇のひまわりが揺れた。  〈了〉 ※番外編に続きます
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