第15話 捨てられた猫のような気分

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第15話 捨てられた猫のような気分

 チヨの旅は空振りに終わった。  手紙の住所にはいまは誰も住んでおらず、目当ての恋人、ヤジも行方知れずだという。それも同居していた恩人を殺していなくなったとか。詳しいことはわからぬまま、重い空気の帰り道である。  と言いたいところだが、そこはそれ、屈託のないチヨのこと、からからと笑いながらいう。 「とんだ嘘つき娘だったね。ヤジの住所を知ってるどころか、同居していた自分の家じゃないか」  なぜか楽しそうな様子に、半ば呆れながら、旅連れのトウショウが応じる。 「ソウのことだな。悪い子じゃなさそうだったがね。ヤジが鬼になって、ソウの爺さんを殺したとかなんとか。どういうことなんだろうな」 「わからないけど、そう信じているみたいだね。化物を退治した時に、違うと言っていたのは、ヤジじゃないってことだったのかもしれんね」 「これからどうするんだ」 「あたしは、もう少し旅を続けるよ。ロンとソウを探して、詳しいことを聞かせてもらうさ」 「どうやって探すんだ?」 「二人が鬼を追っているなら、あたしも鬼を追うよ。それがヤジなのかも知れないし、いつか出会えるんじゃないかね」 「たしかに、このままじゃ納得できないよな。しばらく俺の家で休んでいけよ。さすがに一緒に行くことはできないが」 「ああ、ありがとよ。あんたはナキリと乳繰り合ってればいいさ」 「下品だよ、下品!」  くだらぬ話をしながら旅を終え、トウショウの街へ戻ってきた。出発した時と変わらず、多くの人が、かつての城砦へ出入りしている。  もしや出迎えに来てはいないかと、淡い期待をもって城門へ向かうトウショウである。すると、通じ合うものもあるのか、黒髪に白い肌の少女が城門脇に座り込んで土を掻いていた。固い土に指先が荒れて血が滲んでいる。  声をかけがたい雰囲気だったが、そんなことには頓着なく、陽気に声をかけた者がいる。もちろん、チヨである。掘り返された穴の中を覗きながらいう。 「なにをやってんだい? 愛しのトウショウが帰って来たんだ。胸に飛び込んでやったらどうだ」  その声に顔をあげたナキリの目は、鋭く暗い光を放っていた。ふと、表情を和ませ、 「二人ともお帰りなさい。無事で良かった」 と言う間に、足下の穴から獣の像らしきものを取り出して逆さまに埋め直した。その様子を目で追いながら、トウショウが問う。 「ナキリ、その像は?」 「まじないの銅像だよ。城砦の護りに埋めてあるんだけど、毎年、掘り出して埋め直すんだ。乙女が素手で掘り返さなきゃならないんだってさ。そんなことより、チヨさんの探し人は? 見つかったの?」 「ああ、だめだめ」  とチヨが手を振った。「いなかったよ。鬼になったんだとさ」 「鬼に……」 「ただの与太話さ。数年前の話らしいがね」  笑い飛ばすが、ナキリは詳しく聞きたがった。  なんとなく蚊帳の外のトウショウが、ふと思いついて黒猫はどうしたのかと聞くと、いつの間にかいなくなったとの冷たい返事だ。その言葉に、自身が捨てられた猫のような気分になったとか。
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