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第6話 ガブリ
調子に乗っていたチヨは、哀れ、空飛ぶ化物に足を掴まれ、頭を丸ごとガブリとやられた。思わず目をつぶったトウショウが、
「ああ、やられちまった。人を食ったようなろくでなしだったけど。こんな目に合うようなことなんて、していたような気もするし、自業自得のような気もするけど。可哀想に。あんたのことは忘れないよ。ちゃんと供養してやるからな」
と嘆いていると、チヨの声が聞こえた。
「勝手に殺すんじゃない。あんたがあたしのことをどう思っていたか、よくわかったよ。ろくでなしは、どっちだい」
恐る恐るトウショウが目を開けてみると、そこには五体満足なチヨの姿だ。見知らぬ優男に抱きかかえられている。
「間一髪、この人が助けてくれたんだ」
「いやいや、危ないところだったね。世の中には本当の化物だっているものさ。この先は俺たちに任せてくれ。素敵な女性が殺されちゃ勿体ない。どれ、助けた御礼に軽く口付けでも」
と唇を近付ける優男に裏拳をくらわせて、
「まったく、助平ばかりで嫌になるね」
と飛び下りるチヨである。そんなくだらぬやり取りの合間に降りてきた化物が、優男の肩を掴んだ。
「あ、こりゃまずいかも」
つぶやく優男だが、その声には余裕があり、噛み付こうとした化物の動きが止まった。その体に、呪符を織り込んだ網が巻きついている。助けてくれたのは優男のお仲間であろうか。同年輩の別の男かと思えばさにあらず、
「まったく兄様は。綺麗な人を見るとすぐに鼻の下を伸ばして。そのうち足元を救われますよ」
と不満気に言うのは、まだ幼さを残した少女だ。凛とした声に相応しく、涼やかな眼差しで、油断なく化物に気を配っている。
優男は頭を掻き掻き、目を見張るような身のこなしで少女の元へ向かうと、呪符を織り込んだ網を受け取って、ぐっと身を沈めた。あわせて化物もぐっと身を沈める。ひざまずくかのような格好だ。
化物の眼前に立つ少女と、ひざまずく化物の姿だけをみれば、なにやら臣従の儀式のよう。両手で複雑な印を結び、口中で呪を唱えると、拝礼する化物に向かって高らかにいう。
「万物の理より外れしモノよ。斉天大聖孫悟空の名の下に命ずる。天のモノは天へ、地のモノは地へ、人のモノは人へ。疾く去り、疾く還れ。遍く陰の気を引き連れて、去ね!」
気合いとともに放ったのは鋭い針だ。それは化物の眉間に突き刺さった。と思う間に針から炎が巻き起こり、化物に巻きついた呪具に燃え移る。前のめりに倒れ伏した化物を眺めながら少女は、小さな声で、違うと言って首を振った。
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