17人が本棚に入れています
本棚に追加
/66ページ
第一章
時は平安、後一条帝の御代――。
油小路沿いの渡辺綱邸では、朝から使用人たちが騒いでいた。
「今日は朝から風もないのに几帳がばたばたと倒れてしまいよりますわ」
「こちらは御簾が勝手に巻き上がったり落ちたりしてますえ」
「半蔀もきいきいとうるさいったらかないしまへんなぁ」
そう広くはない邸内では調度類がひっきりなしにがたがたと音を立てており、とにかくやかましい。まるでそこだけ夏の嵐がやってきたような様相だ。
庭の杏の木の枝という枝にたわわに実った青い実が、風にあおられてゆらゆらと揺れ、いまにもぼとぼとと落ちそうだ。
昨夜からの小糠雨は明け方頃に止んだが、空は鉛色の雲で覆われている。地面は雨でそこかしこが濡れており、空気も湿っていた。
「なんでこないなことになったんやら」
「こらあかん。折櫃が勝手に井戸に飛び込んだわ」
最初のコメントを投稿しよう!