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「私共は、日本中の埋もれたアーティストを探して、プロデュースさせて頂いています。先日、あなた様のお描きになっている絵を、公園でたまたまお見掛け致しまして」
「じゃ、じゃあどうしてその時声を掛けてくれなかったの?」
この時の私は少しむきになっていたのかもしれない。余りにも知的な女性の登場に、ライバル心を抱いてしまったのだと思う。
園原と名乗るその女性は、私をバカにするかのように一瞥して、また総一郎さんに向き直った。
「余りにも集中なさってたので、誰かさんのようにお声を掛けるなどど無粋な真似はご遠慮させて頂きました」
「なっ‥‥‥」
勝ち誇ったようにそう告げるその女に、私はカチンときた。
その余りにも露骨な物言いに、総一郎さんがあたふたしているのが分かる。
園原はそんな私達の胸中を無視するように話を続けた。
「取りあえず、他の絵も見せて頂けますか?」
そう言いながらも、園原はもうその気満々で、後ろ向きになったかと思うと玄関に腰を下ろした。後はもう靴を脱ぐだけだとでもいうように。
「わ、分かりました。どうぞ」
園原は当然とでも言いたげに、最後まで言う前にすでに家に上がっていた。
「お邪魔しますわね。で、アトリエはどちら?」
「アトリエというか、ただ描いた絵を置いてあるだけですが、こちらです」
総一郎さんがその部屋の扉を開けた瞬間、園原の足が止まった。
その時だけは、高飛車なその表情は消えていた。瞳も少し潤んでいたようにも見える。
でも、すぐに真顔に戻ったけど、それでもその瞳は輝いたままだったと思う。
「素晴らしいわ。思った以上ね」
園原は中に入らず、入り口でただ部屋中を眺めていた。いや多分、入らなかったのではなく、入れなかったのだろう。余りの迫力に圧倒されて。そんな気がした。
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