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従業員は最初は社長と副社長、どっちが良い? みたいな軽い感じだったが、いつの間にか相手派閥の人を否定するようになり、接客中も異なる派閥の人が気になっていた。そのせいでストレスが溜まって客に当たるようになったようだが、おもちゃを買いに来た人からすれば迷惑極まりない。客にもアンケートをとっていた時期もあったらしい。得票数が多い方が一ヶ月間売り場を支配したとか……。
と、ここで過去の出来事に思いを馳せるのを止める。問題は従業員同士の確執ではなく、心霊現象の解決だ。実際に廃墟に行って、幽霊の存在を確認すれば良いのだ。
僕はパソコンの電源を切り、自分の身を守るための道具を買いに行くことにした。設楽さんが使っていた大きな太鼓や、白くて長い紙がたくさんついた棒は持っていない。自分で作ろうと思ったが、一般人の僕が作っても効果がないんじゃと、すぐに考え直す。
そうすると、除霊用の塩と香水の二つだけが妥当だろう。あんまりたくさん持っていくと動きにくくなる。準備は設楽さんのアドバイスを元に行われた。専門家の言葉なら信頼できる。
「おさむくんが香水を持ってると違和感あるね。鼻がツンとするから好きじゃないって言ってたからかな」
「安全のためさ、我慢するよ」
家で荷物を整理していると、好美が香水に興味を示した。実は、僕は香水の匂いが苦手だ。それをよく知っている好美が違和感を持つのは自然だろう。特に匂いがきついのを嗅ぐと吐き気を感じる時がある。ちなみに洗剤や芳香剤は平気だ。
今回は幽霊がいるかもしれない場所に行くから、匂いが駄目だなんて我儘は言ってられない。今回ばかりは我慢だ。
「よし、これで準備終わり」
「明日の朝から行くのよね。その日の内に廃墟に?」
「その辺は五郎さんの体力次第かな。僕はたぶん大丈夫だけど、五郎さんは五十九歳だから……厳しそうだったら次の日に延長するよ」
「……本当に気をつけてよね」
「うん、分かってる」
目的は幽霊の存在を確かめるだけだ。深入りはしない。余計なことをして自分の子供の顔を拝めなくなるのはごめんだ。
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