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このマンションも娘がいなくなってからというもの、無駄に広さを感じる。
「たまにはお父さんの声が聞きたくなったっちゃんね! お父さんも私が居らんと寂しかろ?」
「なぁん言いよっとか。うるさか娘が居らんごとなって清々しよったい」
嘘である。寂しくて仕方がない(笑)。
「まぁたそげな強がりば言うて、どうせお酒の量増えとっちゃろ?(笑)」
娘にはお見通しだ(苦笑)。
それから少しの間、お互いの近況を伝えあったあとに、栞が切り出した。
「お父さんは、再婚せんと?」
ドキリとした。栞は、今まで一度だってそんなことを口にしたことがなかった。
栞の母であり、私の妻であった明子が、あの子がまだ幼い頃に亡くなってからというもの、私は男手ひとつであの子を育ててきた。あの子は私に気を遣っていたのだろう、幼いながらも「お母さん」という言葉を滅多に口することはなかった。そんな娘から、【再婚】という言葉が唐突に出てくるとは――。
「どうしたとね?」
テレビ台に立てかけてある、小さい頃の栞と明子が一緒に映っている写真に自然と目が向く。
「ううん、お父さん一人じゃ何かと大変やろうねと思って……」
「ははっ、父さんは心配なか。それより栞の結婚の方が先に考えんといかんやろが」
「……そうやね」
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