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「あ……すまん」
「ううん、そんなんじゃなかよ(笑)」
栞には高校生の頃、同級生のとても好きになった男の子がいた。だが残念なことに、彼は難病を患い17歳という若さで旅立ってしまった。栞にとって、まだまだ立ち直るには時間のかかる出来事だろう。
しかし、あの頃の栞は怪我の所為で将来を悲観して腐り切っていたのだが、精一杯に生きるという強い信念を持って生涯を全うした彼の姿が、娘を立ち直らせてくれたことに私は深く感謝をしている。
『彼のことを好いた栞なら大丈夫』……私はそう信じている――。
それから他愛もない会話をしたあと、栞は、「好いた人ができたら直ぐに教えないかんよ!」、そう言って電話を切った。
気のせいか、言い方がますます明子に似てきたのが可笑しくて、つい明子に笑いかけてしまう。
「……」
そして、それと同時に出会ったばかりの彼女の顔がすっと浮かんできてしまい、私は気まずい思いを感じて直ぐにそっぽを向いてしまった――。
3
「しっかり張らせて頂きましたばい」
「ありがとうございます」
「神森さんは、この辺の方ですか? あんまりこの辺で見かけたことなかような気がするんですが……」
「先月、横浜から引っ越して参りました」
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