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あゆみさん。聡一郎さんは、あなたの人生最愛の男でしょう。痛いだとか怖いだとか言っていないで、子どもをさっさと産んで育ててみなさいよ。父親似の男の子だったらいいわね。本当に、本当に可愛いわよ。母親にとって、自分が心から愛した男によく似た顔をした実の息子って。心をトロトロに溶かされるくらいにね――
淳一郎君は話しおえて左手と顔を離し、「ふう」と息をつきました。私は身体を右に傾けたままの格好で、動けないでいます。
「あゆみお母さん、大丈夫?」
淳一郎君の心配そうな声を耳にして、とりあえず姿勢を正して椅子に座り直しました。淳一郎君と隣にいる聡一郎さんが二人して、そっくりの微笑みを投げかけてくれています。私はようやく、今日の天気のように晴れ晴れとした花嫁らしい気持ちになれました。
美紗子さん、ありがとう。司会の岡さんが、閉宴のご挨拶をなさっています。私はこれから、聡一郎さんの妻として、淳一郎君のお母さんとして、披露宴の最後のお勤めへ、ご来賓の皆様の退場お見送りへ向かいます。(了)
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