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高砂の両端の席には、仲人を務めていただく黒紋服姿の商工会議所会頭の猪野さんと、黒留袖姿の奥様が腰を下ろして、落ち着いた笑顔で私たち三人の――実際のところは、おそらく私一人の――緊張を和ませてくださっています。高砂の下では二百五十人ものご来賓の皆様が各々の席に着き、優しい視線を私たちに向けてくださっています。
結納の際には最多の九品目と、お豆腐ほどの厚さの結納金、なんと一カラットのダイヤモンドの婚約指輪をいただきました。県内最大規模の結婚式場での挙式と披露宴にも、八百万円近いお金をかけていただいています。今着ている色打掛が似合っているかどうか甚だ疑問である私がお嫁にくるにあたって、そんな大金を使っていただき、聡一郎さんとお義父様お義母様には、私の両親ともども、誠に申し訳なく思っているしだいです。
仲人さんのご挨拶がはじまります。文金高島田のかつらが重くて、席から立つだけでも難儀しますが、そんなことは言っていられません。
私と聡一郎さんは、今朝の七時半に二人で市役所本庁舎の時間外窓口に婚姻届書を提出してきました。猪野さんのおっしゃる通り、先ほど神前にて夫婦の誓いを交わし、結婚指輪を交換しました。新郎新婦の二人では勿論、淳一郎君を交えた三人でも写真を撮り、親戚一同の集合写真も撮りました。両家の親族紹介もおえています。もはや、私は聡一郎さんの後妻と、皆さんに認められたのですよね。
美紗子さん。ついに、あなたから聡一郎さんの妻の座を奪ってしまいました。
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