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家庭科部の当番で、部活動の後、家庭科室の掃除をしていたら
「高崎、一人?」
と田所君が家庭科室に来た。
田所君が私に、何の用事があって来たのだろう。「学校の貴公子」と名高い田所君が。
「一人、だよ」
と私が答えると、田所君は珍しそうに家庭科室に入って来た。男子の田所君は家庭科室と縁が無いので、興味深いのだろう。
「この間の返事がしたいんだ」
と田所君が言った。
「返事?」
「この間のバレンタインデーにくれた、チョコレートの」
心臓の鼓動が早くなった。
一ヶ月前のバレンタインデーに私は、恐れ多くも田所君に、チョコレートを渡したのだ。「鶏ガラ」の私が、「貴公子」の田所君に。
「あのブラウニー、手作りだろう?美味しかった。頑張って作ってくれたんだろう?高崎さんは、いつも頑張っているよね。この間、跳び箱六段跳べるように、練習していたのも見てたし」
恥ずかしい・・・・・。あれを見られていたのか。クラスで跳び箱六段が跳べなかったのは、私だけだったのだ。
「脱線したね。返事したいから、両手を出して」
言われるがままに両手を出した。何を寄越すつもりだろう。両手を思いっきり、叩かれるのか?
「高崎さんのブラウニーが、一番嬉しかった」
そう言うと田所君は、自分の両手を左胸に当て、今度はそれを、私の両手に重ねた。
「俺の心が、君への返事。不満かな?」
私ははじめ、意味が分からす田所君の顔をじっと見つめた。
暫くして、ようやく田所君の言いたい事を理解した私は、顔を首まで真っ赤に染めたのだった。
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