10年後のホワイトデー

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10年後のホワイトデー

 くるくると辺りをまわって、行く所のない美穂は舞台下の目立たないスペースに立ち尽くした。話す相手がいればよかったのかもしれないが、仲の良かった友人は出席していなかったようだ。  ネットで見かけて買った、甘めの桜色のパンプスが慣れないせいで随分とくたびれた。  シャンパンはもう一生分飲んだし、もうやることもない。明日は仕事もあるし、もう帰ろうかなと弱気になった。  美穂の手元にその手紙が届いたのは、世間がまだバレンタインで浮かれている頃だった。前の住所から転送されてやってきた手紙を不思議に思いつつ、作り置きしておいたピーマンの肉詰めと味噌汁、サラダと適当にご飯を済ませる。一人暮らしにもだいぶ慣れた。始めは料理本なんか片手にいろいろ作っていたが、最近ではめっきり簡単なものをローテーションで作るくらいだ。    食べ終わって早々、メイクを落としてお風呂に入った。外で冷えた体に温かさがじわりじわりと浸透する。     
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