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湿った土と草の匂いが鼻の奥に入り込み思わず咳き込んだ。不規則な足音と荒い呼吸の音がこもった耳に響く。起こした身体は次第に倒れ、両手をで地を握りこみながら前に進む。
もがいてもがいて、それでも前に進まない。スローモーションの幻影に悩まされて手足を懸命に動かしてもがく。
助けを求めるように前に伸ばした手を後ろからもう一つの手が握り込んできた。ぴたりと触れ合う甲と掌、腕と腕。慰むように絡む長い指。覆いかぶさる体温に悲鳴がほとばしる。
助けて助けて許してもうやめて。
紡いだはずの言葉は霧散して喉の奥に消えていった。形のないモノだけが僕を訶み蝕んでいく。
それを君はなんと名付けるだろう。
遠くで何か聞こえる。猫の声。いいや違う。あれは赤子の声だ。
おんぎゃあおんぎゃあおんぎゃあおんぎゃあ。
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