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山田真奈は恋をした。14歳の春の日に。
そうしようと、決めたのだった。
山田は、女より男が好きだ。だから相手は男と決めた。
「恋しちゃったんっだ」
小学校からの友人である、園瀬萌にそう告げた。その時、園瀬の動揺を見てしたりと思う。優越感がこみ上げて、顔をなんとか取り繕った。けれども園瀬は、すぐに落ち着いた表情で微笑んだ。そして、彼女を心から祝福してくれた。
「ええっと…、こういう時って何て言っていいのかな、でも、なんか嬉しい。おめでとう」
その初々しい祝福が、山田真奈の鼻に付く。けれども、嬉しくないわけでもなかった。
「ありがとう」
山田は今更恥ずかしくなって、次に紡ぐ言葉を探す。園瀬は象のような優しい眼差しを向けていた。山田はそれに気付かぬふりをした。胸の奥が痛むから。
「それでね、それでね、どうやったら大人っぽくなれるかな?」
ようやく見つけた話題を使い、お茶とその他を濁しにかかる。
「どうして大人っぽくなりたいの?」
「うーん」
山田の言葉に意味はない。故に、その問いは一番困るものだった。山田は少し考え込んで、それらしい言葉を捻り出す。
「なんていうか、相手に相応の女性になりたいというか」
「なるほど」
園瀬が考え込むのを傍目に、山田は「別に、萌からのアドバイスが欲しいわけでもないのだけど」と考える。無論、表情に出さないように。そのうち園瀬は山田の方へ、妙に神妙深く向き直る。
「まぁ、ほら。私たち、まだ14だし、自然な真奈を好きになってもらうっていうのも、大切なんじゃない?」
山田はもう、適当に聞き流そうと思っていた。それでも、まともなアドバイスができる友人をどこか羨ましくも思ってしまう。
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