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山田はそれでもめげる事はない。むしろ、皆子供だと、内心鼻で笑っていたぐらいであった。
彼女は出来るだけ布の面積が少ないビキニを選んで、試着室へと運び込む。彼女は鏡に写る、水着を眺めてうっとりとした。そしてそれを、今、自分が着ているのだと喜んだ。
早速、園瀬を試着室に呼びつけた。園瀬の驚いた顔を見て、彼女は何時ものように満足をした。けれども、「やっぱり、ちょっと無理があるって」そう園瀬は口にした。苦笑いを付け加え。
山田は園瀬に、不服を申し立てようとする。けれどもその寸前で、言葉が喉に落ち込んだ。魔法が解けたようだった。自分のくびれのない腹がのるパンツ。未発達な身体が、ビキニと合わさり、不健康にさえ見えてくる。山田は表情を誤魔化して「やっぱり?」といって笑ってやめた。
その黒いビキニを買うことを。かくして、皆それぞれの水着を選ぶ。ワンピース型とか、フリルを巻いたようなやつだとか。
昼食をファミリーレストランで済ませた後で、ドリンクバーでだべってねばる。話題はもっぱら夏の事。夏休みどこで何をして、どんなことが待っているのか。そんな事。
「私、夏になるまでに告白するわ。それで彼氏と夏を満喫してやる」
多田はそう言って息巻いていた。山田はまだ、あのビキニの事が離れない。
「ところで多田さんが好きな人って誰?」
園瀬がそれとなく、多田に聞く。
「隣のクラスの榎君」
木下がしれっと答えを言った。
「あ、ちょっ…」
会話においていかれそうなことに気がついて、ふと、山田は口に出す。
「榎君人気だから、ちょっと難しいんじゃなーい?」
厭なことを言った。
「わかんないだろ、やってみないと。っていうか、木下お前、私はあんたの好きな人まだ聞いてないっつうの!」
「わたしは、ほら、その、バレンタイン前ぐらいにみんなに相談するから」
矛先が、木下へ向いて安堵する。彼女を置いて、他愛もない会話が続く。
「ところでさ、園瀬さん」
多田は言う。
「好きな人とか、気になる人とか、いないの?」
「うーん」
園瀬は、首をひねって考える。
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