ビキニ

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「最近ね、夢によく、佐伯君が出てくる」 多田は吹き出し、木下は?を少しだけ染めて、嬉しそうに、にこりと笑う。山田だけ真面目な顔をして、 「恋ですな、深層心理的なその、何か」 とわけのわからない事を言う。 「違うって、まだ何もわからないって」 「まぁ、でもさ、」 「ん?」 「なんか、これでみんな恋する乙女と言う事で、同じスタートラインに立った感じがして嬉しいな。言ってくれてありがと」 山田は心からそう言った。 園瀬は恥ずかしそうに俯いた。そして、顔を山田たちにむけ、嬉しそうに笑って見せる。 「けどこれで、萌より大人だと思ってたのになんか悔しいー!」 山田は叫ぶ。ふと、ドリンクバーのドリンクを、握りしめている自分に気付く。 「いい感じだったのに、台無しじゃん」 多田が突っ込んで皆で笑う。何故だか涙が出るくらい。そうして今日が終わっていった。最寄駅に着いた頃、すっかり日は傾いて、世界はオレンジ色だった。 「じゃあ、また学校で」 程よい疲れに酔っていた。各々、帰路へとついてゆく。山田は一人、足を止めて立っていた。あの、ファミスでのことを思い出す。あの時、多田が茶化していなかったら、自分はどうしていたのだろう。園瀬に、ジュースをかけていたような気がする。何故。分からない。 今日、彼女にビキニを無理だと笑われた。今更ながら、腹が無性に立ってくる。今から園瀬を追いかけて、水でもかけてやりたいと思う。そしてまた、あの黒ビキニの事を思い出す。 あれは、― あれは私だったのに。 無意識に走り出していた。駅へそして今来た方角へ。
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