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最初は警戒してなにも話さなかった小鬼も、怪我が良くなってくると、ポツポツと事情を説明してくれた。 小鬼は、生まれて初めての節分をうまくやり過ごすことができなくて、まともに大豆の魔除けの力をくらってしまったのだ、と言った。兄弟たちは要領よく屋根裏に隠れたり、床下に隠れたりしたんだけど、小鬼は豆なんか怖くない、とタカをくくって隠れなかった。 そしたら、このザマさ――……なんて生意気な口調で言うから、つい笑っちゃったけど、小鬼が話してくれる、人間の気付かない『くらやみ』の話は、僕にはとっても興味深かった。 小鬼によると、人間の暮らしのそこここに、鬼は隠れてるんだと言う。でも、近頃の人間は、鈍くてそれに気が付かない。それに、どこもかしこも明るくて『くらやみ』自体が力を失いつつある。でも、『くらやみ』はなくならないよ、と小鬼は言った。 それは、命のあるところには、必ず存在してなきゃいけないものだから――と。 そしてこうも言った。 『くらやみ』は、得体が知れなくて底が見えないものだけれど、とても優しいものなんだ、と。 僕は小鬼と楽しく過ごしていた。 小鬼も楽しそうに見えた。僕の勉強机の中に潜り込んだり、一緒にゲームしたり。 でも、ある日突然、小鬼は消えてしまったんだ。怪我が治ったからだろう。 寂しかったけど、悲しくはなかった。 だって、小鬼は言っていたもの。『くらやみ』は決してなくならないって。そして、そこに棲む鬼たちも、決していなくならないって。 でもまさか――、まさか、こんなに大きくなって戻ってくるなんて。 あれから、8年。15歳になっていた僕はあんぐり口を開けて、僕の部屋の中に突然現れた小鬼――っていうか、もう「小」は要らない鬼――の顔を見上げた。 いやでも、大きく――なんて言葉じゃ足りない。筋骨隆々?っていうのかな? テレビで見る格闘家の人にだって、こんな体格の人はいない。 あっ、歴史の教科書に載ってたアレが一番しっくりくる。運慶快慶の金剛力士像。奈良か鎌倉か、なんかそういう歴史のあるとこにあるやつ。 なのに、僕には分かった。この鬼が、あの時の小鬼だって。
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