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「よお、久しぶり」
「……ひ……久しぶり」
声まで、大人の声になってる。鈴をならしてるみたいな、可愛らしい声をしてたのに。言ってることは生意気だったけど。
「わかる? 俺のこと」
「……怪我してた、小鬼だろ」
「フン、じゃあ話が早いな。お返しに来たぜ」
「え……っ?」
「お返し。鶴じゃなくて、鬼の恩返し」
僕は呆気にとられて、次の瞬間には吹き出してしまった。
「鬼が恩返しってするの?」
「んー、まあ、したいときには」
「なんだよ、それ!」
笑いやまない俺を見て、小鬼――じゃない、小の付いてない鬼――はニヤリとした。
「ま、それは口実だけどな」
「え? 口実……?」
「まあいいや。お前の望みを叶えてやるよ。何がいい? どんな望みでも叶えてやる――……つもりではいるぜ。」
「つもり、なんだ」
「鬼には苦手分野もあるんだよ。何がいい?」
「え……、じゃあ第一志望の高校に合格させて! 合格祈願!」
「……ってのは、無理だな。それは神様の分野。つか、自力でなんとかしろ。」
「……使えない……」
「言ったろ、苦手分野があるんだって。他には?」
「んー……、思いつかないよ、そんなのすぐには」
鬼はまたニヤリとした。
「じゃあ、思いつくまで待ってやるよ。」
「あ……ありがとう」
「それまで、この部屋に居候させろよな」
「えっ!?」
「このベッド、懐かしいなー」
「ちょ……、無理だよ!小鬼サイズならともかく!」
「なれるぜ、小鬼サイズ」
「え? 今でも?」
「まあ、小鬼サイズでもマッチョだけどな」
「何それ、自慢?」
「あ、あと俺、フツーの連中には見えねえから、心配すんな!」
「いや、まって、無理無理無理無理……」
鬼は意味ありげな笑いを浮かべると、逞しい腕を伸ばしてきた。思わずドキッとした僕の肩をガシッと抱き、僕のおでこにおでこをくっつけてきながら、わざとらしいぐらい優しい声で言った。
「遠慮すんなよ? お返しは、大きな願い事でもいいんだからな。苦手分野でなけりゃあ、だけど。」
「いや、そういうことじゃなくて……!」
こうして、小鬼――じゃなくて、鬼と僕との、二回めの共同生活が始まったのだった。
「鬼の恩返し」 おしまい
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