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風切り音が遅れて鳴る。
木剣が振り下ろされ始めた次の瞬間にはすでに終わっていた。
速かった。あまりにも速すぎた。音を置き去りにするほどに。
自然力が介在しない純粋な技量による振り。武に関しては凡人程度の才能だが数百年にも及ぶ研鑽を積むことで普通の人間が到達し得ない領域へ足を踏み入れたのだ。
「どうでしょうか。私に教えられることはありそうですか?」
「俺は君を誤解していた。少女に剣術を学ぶことなどないもないのだと勝手にそう思っていた。どうか俺を弟子にして欲しい。いや、してください!」
突然の大声に肩が跳ねる。長年静謐の中で生きてきた私にとって彼は少しばかり眩しい。
とはいえ老いぼれた私にも今を生きる人に教えられることがあるのは嬉しいことだ。ただただ暇を潰すために積んできた研鑽がここにきて活かされることに少し浮かれてさえいる。
「師というほど偉い者ではありませんので気兼ねなく接していただいても……」
「いえ! 教えを請う立場であるならば師と仰ぐのは当然のことです」
(決意のこもった眼。明らかに一歩も引かないと言わんばかりですね)
「むぅ……はあ、分かりました」
「ありがとうございます! 師匠!」
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