第1章

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「ナツ、本当に俺のこと好きなのか?」  リョウのその質問が理解できなくて、「私が嘘をついてるっていうの?」と問い返す。 「嘘とか、そういうんじゃなくて、ナツの言う好きって気持ちは、本物なのかってこと」  彼は私から目をそらした。テーブルの上に乗せた手の親指の爪を反対の親指でもじもじ撫でている。  ますます意味が分からない。これは遠回しに別れ話をされているのかもしれない、と苛立たしかった。  今ではちゃんと彼のことが好きだ。きっと彼の「好き」を上回るくらい好きだ。デートの前日は服を選ぶのに何時間も悩む。イベント事も気合をいれて何か月も前から準備してしまうほど張り切る。休みの日には一緒にいたい。いろんなところに行きたい。いろんなことをしたい。  この気持ちが偽物だと疑われるのは心外なことだった。  「リョウのこと、好きだよ。いつも言ってるじゃん」  半年前、告白してきたのはリョウのほうだった。確かに私は最初、リョウに対して恋愛感情はなかった。けれど嫌いでもなかった。これから好きになれると感じるだけの魅力が彼にはあった。好意も嬉しかった。だから私はその告白を受けた。 「それとも、リョウはもう好きじゃなくなった?」  私の問いに、リョウは二秒間たっぷり間をおいた。 「答えになるかはわからないけど」  リョウはゆっくり言った。 「ナツ、言ったよね。今まで付き合った男はすぐに自分に飽きてしまったって」 「うん」 「もしかしたら、その人たちはみんな今の俺みたいな疑問を持ったんじゃないかと思う」 「疑問?」 「ナツの気持ちは、ただの返済に見える」  ヘンサイ?  「好き」の文脈に「ヘンサイ」の漢字が予測変換ですぐに出なかった。 「ナツ、自分から好きになって告白したことある?」 「ない」 「告白された人たちのこと、実はずっと好きだったってことある?」 「ない」 「ナツは、律儀なんだよ。何かしてもらったらお返しをしないと気が済まない、優しい性格だ。だから、好きだと言われたら、自分も同じだけ好きにならないといけないって思ってる節がある。俺にはそう見えることがある」  リョウは指を組み換えて、再び親指を親指でこする。あいかわらず目線は私から外れている。  私は納得がいかないままだったので、この自信なさげな動作と今までの発言に一層イライラし始めた。 「私が情けで、男と付き合ってきたと?」
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