色づいた日々

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色づいた日々

 身体の弱い子供でした。  少し外に出ただけで、体調を崩し寝込んでいました。うつる病ではありませんでしたが、奥の座敷で隔離されるように育てられました。  疎まれてはいたのでしょう。両親も兄妹も顔を見せることは少なく、多くの時間を一人で過ごしておりました。  大抵は寝て過ごしておりました。幾分か具合のよい時は庭を眺めたり、読書をしたり。色のない日々。ただ、死んではいないだけの日々でした。  それと出会ったのは冷たい雨の日。  その日は比較的過ごしやすく、布団から出ておりました。絶え間なく、静かに降り続ける雨。人気のない庭を眺めるのは好きでした。  しとしと、しとしと。  最初は、気のせいかと思いました。庭に、黒いモヤのようなものが見えたのです。細長い、人ほどの高さのそれは庭に揺らめいていました。  ゆっくり、ゆっくり。  家に近づいては離れを繰り返し、少しずつ移動しておりました。その様子は、まるで入り口を探しているようで。雨が降っているし、外は寒いものねと妙に納得したものです。  壁づたいに、私の部屋へと近づいてまいります。  ゆらゆら、ゆらゆら。  それは窓の外で揺らめいています。視線を感じました。目はおろか、顔などどこにもありません。それでも、確かにそれは私を見つめていたのです。 「……どうぞ」  私は窓を開け、それを招き入れました。  ゆらゆら、ゆらゆら。  しばらく窓の外で揺らめき、それはゆっくり、ゆっくり中へと入って参りました。異様に冷たい空気が横を通り抜けます。雨に濡れた形跡はありませんでした。  ゆらゆら、ゆらゆら。しばらく室内で揺らめいて、やがてそれは襖を通り抜けていきました。どうして家の壁は通り抜けられなかったのかと、首をかしげたものです。
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