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その日も、熱が出て臥せっておりました。ゆらゆら、ゆらゆら。彼は私を見守ります。私は布団の中から彼を見つめます。
自分の咳で目を覚ましました。身体を曲げ、激しく咳き込みます。どうにか息ができるようになってから、枕元の水差しに手をのばします。
一口。冷たい水が身体に染み渡り、ようやく息が整います。そうして、違和感に気づいたのです。
外は明るく、けれど異常なまでに静かでした。この時間帯ならば、人気があるはずです。妙に嫌な予感がしました。
重たい身体を、どうにか起こします。壁にすがるようにして、廊下をゆきます。誰もおりません。
手に何か触れました。見れば壁に見覚えのない札が。等間隔に貼り付けられています。
一歩、また一歩。どうにか足を動かします。どこに向かえばいいのかわかりません。頭がガンガンして、呼吸がしにくいです。少し進んでは休んでを繰り返し、あまり前に進みません。
一歩、また一歩。休んで呼吸を整えて。
力尽き、ずるずると床に座り込みました。壁にもたれ、肩で息をして。少し落ち着いた頃、寒気がしました。
瞼を開くと、彼が揺らめいていました。
ゆらゆら、ゆらゆら。出会った頃のように、細く薄くなっておりました。どうして。涙が込み上げてきます。
深呼吸を繰り返し、壁を支えに再び立ち上がります。ゆっくり、ゆっくり、来た道を戻ります。彼はついてきます。
部屋に入ろうとして、襖にも札が貼られていることに気がつきました。破り捨てます。
どうにか窓辺にたどり着きました。もう、立っている体力はありません。窓を開き、彼を見上げます。
「……どうぞ」
逃げてください。
このままここにいたら、消されてしまうのでしょう。そうなってしまう前にどうか。
ゆらゆら、ゆらゆら。彼は揺らめいています。私は彼を、ただ見つめます。
ゆらゆら、ゆらゆら。
モヤの一部がのびてきました。
ぽとり。
膝の上に、小さな赤い粒が落とされました。摘まんでみます。南天に似ていますが、何かが違います。どことなく半透明のような。
これは?
顔を上げ、息を飲みました。実を落としたモヤの一部が、私の頭にのびていたのです。まるで、頭を撫でるかのように。とめどなく、涙が溢れます。頭から頬へ、モヤが移動します。
ひどい、寒気が、して、
そうして、私は意識を失いました。
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