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「じいや、じいや、今僕たちはどこに向かっているの?」
「ふぉふぉ、今儂らはご当主様の別荘に向かっているのですよ」
「へー、別荘かー」
体に比べ大きな頭を傾け聞いてくる姿に、思わず頬が緩む。吸魔の指輪をつけることで高熱は完治し気力を取り戻していた。あれから3年が過ぎ、現在……ワードン王国の伯爵家別荘宅。
一王国の伯爵家である。広大な領地を与えられ別荘宅だとしてもとてつもなく広いのだ。
「じいや!じいや!魔法教えてくれるってほんと?」
動きやすいようにと用意された服に身を包んだルアノが飛び跳ねている。
「そうじゃな、儂の命はご子息様に勉強と武術、魔術を教えることですからな」
「……武術?魔術?」
首をかしげ、ぽかーんとしている。
「ふぉっふぉ、申し訳ない。強くなる方法の事ですじゃ」
「強くなれるの!前話してくれた賢者様みたいに!」
ぱっと表情が明るくなり興奮している。この子が言う賢者様とは、読み聞かせた龍を倒す冒険譚の絵本に出てきた主人公である。子供が勇者や魔女に憧れるのは貴族も平民も同じなのであるが、全ては素質が有るかどうかであった。そして爺やが教えるのは何よりもこの子に魔力の素質が有るからであった。
「ああ、成れますとも。ご子息様が努力を積められればでございますがの」
その可愛らしい姿から頬が綻び口調が無意識に少し変わる。
「よーし!僕頑張るからね!」
「ふぉっふぉっふぉ、それでは…今日からでも始めますかな?」
この別荘は別宅とはいうものの館と呼んでいい程大きく、庭……と言っていいのかも分からない位広大であった。だからこその引っ越しであり…王都の実家がどれだけ敷地が大きいとしても、魔術の鍛錬をするには危険性や敷地の面積が足りないのである。
「わーい!どりょくだ!どりょくだ!!」
喜ぶ気持ちが抑えきれないのか、スキップをしてはしゃいでいる。
爺や、アンドリュー・ヌングは王宮お抱え魔術師の家系に次男として生まれ王都魔導学院を卒業。現在は……目に入れても痛くないと思える自称弟子を育てている。絵本の冒険譚で弟子という言葉を好きになったのだろう。見てくれは可愛いものだが、内に秘める魔力量は未だ自分には届かないものの成長すれば直ぐに追いつくレベルである。王宮お抱えの自分にである……
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