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「あれ、平良じゃないか」 その声に振り向くと、僕の高校の物理教師の安井正明先生だった。今年度の物理の授業でお世話になった、まだ二十代の若い先生だ。 「安井先生」 「おう。お前もバレンタインデーのお返しを買いに来たのか?」 そう言って先生はニヤリとする。 僕らがいるのは、いわゆる「デパ地下」というところだ。ホワイトデー直前の日曜日。セール真っただ中で、色とりどりのお菓子が山のようにディスプレイされている。 「まあ、そんなところですね。先生もですか?」 「まあな」安井先生はそっけなく応える。 この人の彼女は、同じ高校の総合科で教えている南野都羽(とわ)先生だ。彼女は今年度から正式採用されたが、昨年度も臨時教員として働いていた。僕は普通科なので教わることはないんだが、南野先生はアイドル並みの容姿を備えていて男子生徒から凄まじい人気がある。しかし、去年の春あたりから安井先生と一緒に街中でデートしている姿を何度も目撃されており、おかげで彼は総合科の男子からかなり恨まれているらしい。 「お前、彼女いたんだな」 「え、ええ……まあ」     
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