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美夕の白く細い、柔らかな手が貴臣の顔を包む。
「兄さん、泣いてるの?」
双眸がぶつかり合う。
美夕は、逃げず逸らさず真っ直ぐに貴臣を見つめた。
涙は見えない。
けれど、美しい切れ長の目の中で聡明な光を湛える漆黒の瞳が憂いを含んで揺れていた。
泣いてる。
兄さんの心が。
いつから。
きっと、もうずっと、ずっと昔から。
胸が締め付けられる。
抱き締めたい。
美夕の中で戸惑う心を覆い尽くす感情があった。
ボロボロと涙を零し始めたのは美夕だった。
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