父の言

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 シンガポール、ラッフルズプレイスにあるオフィスビル高層階の窓からは、摩天楼の合間、海に流れ行くシンガポール川が見えていた。 広い河にはクルージング船。 観光に興じる人々の姿が微かな影となって見えていた。  香月健人は、太陽の光を受けて乱反射する外の景色を見つめる。  燻し銀の髪に物憂げな影を作る彫りの深い端正な横顔が昼下がりの陽光に映えていた。  美夕は、優香が亡くなった時にこっちに連れて来るべきだったんだな。  明るく光風景に眩しげに目を細め、健人は内心で呟いていた。 『お義父さん、ありがとう。お義父さんが助けてくれたのでしょう』  すまない、と言おうとした健人の言葉は優しく遮られた。 『お義父さん、ありがとう』  最後に改めて言った言葉には、深い重みが感じられた。  電話でも分かった。 美夕の声は涙でくぐもっていた。
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