1-5 動物病院

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1-5 動物病院

 一色に教えてもらった海沿いの施設の、広い駐車場にプリウスを停めると、後部座席のクレートからテツを出してリードを着けた。  駐車場には既に10台ほどの車が止まっている。日曜に診療している動物病院が少ないから混んでいるのかと思いきや、併設のドッグランとカフェが目的で来ているようだ。日曜で陽気も良いからか、犬同伴の親子連れで賑わっていた。 風除室を抜けて店内に入ると広いロビーがある。受付で、スタッフと刺繍されたポロシャツを着た若い女性と、白衣を着た男性が座って話をしていた。パソコン画面を見ながら女性に何やら指示を出しているその男性は、俺と同じくらいの歳に見える、色白で眼鏡をかけたインドアタイプだ。彼がここの獣医師だろうか? 「あの…ここって、動物病院もやってますか?」 「いらっしゃいませ! 初めての方ですね、診療時間中ですよ」  和かな営業スマイルを向けた彼の横の壁には、A4サイズの顔写真入りの獣医師・植田 直哉と紹介プレートが飾られていた。彼が獣医師で間違いないようだ。 「あの…誠 訓練士の紹介で動物病院に診察に来ました」  一色の名前を出すと、植田獣医は急に営業らしさが消えて、柔和な笑顔になった。 「誠先生の生徒さんですか? 誠先生の生徒犬は皆お利口なので、いつも本当に助かってるんですよ。では、こちらをご記入いただいて、あちらのソファでお待ち下さい」  渡された問診票を記入すると、ほとんどロビー中央のソファに座る間も無くすぐに診察室へ案内された。 「速水 テツ君ですか。今日は…関節の検査をご希望なんですね? 普段から痛がりますか??」 「いえ、健康なんですが…アジリティを始めたので、一応関節検査を受けるよう勧められました」 「なるほど、では診察台に乗せて下さい」  テツを診察台に乗せると、彼はテツの足回りを触診し始めた。テツはワクチン以外病院に来たことが無いので、特に嫌がることも無くポカンとした顔でされるがままになっている。  足を曲げたり伸ばしたりしながら一通り触診すると、受付の女性を呼んだ。 「では今からレントゲンを撮りますので、速水さんはロビーのソファで待ってて下さい」  植田獣医はテツを抱き上げると、女性を助手に、レントゲン室へ入って行った。俺が側に居なくても平気だろうか? 怖がって撮影中に暴れたりしないといいが…。  ガランとしたロビーの待合ソファで待機していると、カフェとドッグランを何人かが行き来していた。5月の陽気の中、外でランチを食べたらさぞかし気分が良いだろう。  連休でかき入れ時なのか、カフェのスタッフはパタパタと忙しなく給仕している。  今度、一色と一緒に来たいな。  でもこれだけ客がいると、一色が囲まれてプチ訓練教室とかになって、落ち着いてランチとか食っていられないかもな。  そんな妄想をしながらボーっとカフェを眺めていると、見覚えのある女の子が店内に入って来た。先ほど訓練所でテツを怖がった少女だ。俺に気付くと、辺りを見回して、話しかけてきた。 「さっきのワンちゃんは?」 「今、レントゲンっていう骨の写真を撮ってもらってるよ」 「病気なの?」 「病気が無いか検査してもらってるんだ」  犬が居なければ人懐っこいのか、少女は俺の横に座るとペラペラとおしゃべりを始めた。
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