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1.パントマイム
僕の仕事はパントマイム。
伯父さんに子供の頃しこまれて、クラス会で披露したのが幕引きで、引かれた人生の幕は僕をステージに置いていった。
大きなシャボン玉の中に閉じ込められた男。ないはずのシャボンの壁が、無色のプリズムをクラスメイトの瞳に反射させる。
「凄い」
「ホントにみえてきた」
「ハザマ君上手」
段差のないステージ、教室の三角座りの列、先生が真ん中でニッコリ微笑んでいた。
僕は、胸の内ポケットから針を一本取り出して、シャボン玉から脱出する。肩にかかった飛沫をパッパ。針を咥えて、颯爽と去っていく。
「あれぐらい俺でもできそー」
「聞こえるよ」
「白塗りで誤魔化しているけど、結構おじさんだよね」
「新しさがないね、音楽とかSE使うとか、工夫がないと、時代にフィットしないよ」
あれあれ。
僕はパントマイムが上手で、クラスの人気者だった。
凄いね、上手だね。クラス会の出し物トップ賞はハザマ君のパントマイムショーでした、パチパチパチパチパチ。無限に耳に飼ってるあの拍手、みんなの笑顔。なんだかこの頃、ちょっと違って聞こえる。
「ふう」
街の喧騒、瞬間的で無記名な言葉。広場の噴水に投げられるコインより、何倍も少ない今日の稼ぎを数えながら、僕はパントマイム中に聞いた声を再生する。
僕の口は、最近とっても口が悪い。
「またいるよ」
「不必要な仕事の順に消えていくなら、あの人何番目に消えるだろうね?」
「テレビに出てた人、もっと上手だったし、華があったね」
「まーまー、あの人もいつか有名になるかもよ?」
僕の仕事はパントマイム。ないはずのものをあるようにみせるんだ。
あるはずのものをないようにみせるのが得意な往来の皆皆様に代わりまして、どうでしょう、コインを噴水に投げるより、僕に投げてくれませんか。
数えるコインの枚数で暮らせない毎日。
僕はイラストを描いた。
こっちの仕事は一人でできたけど、貰える仕事は誰もみていない広告のカット絵や、思春期の少年が河原で蹴る雑誌の挿絵ばかりだった。
夜、僕は布団に入る前に、パントマイムで誰かを殴る。そして誰かに殴られる。最後に、僕を引っ張り上げてくれた誰かに、花束を送る。
いつかきっとと、練習しておく。
口は悪いけど、パントマイムは濁らせない。
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