2.お嬢ちゃん

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2.お嬢ちゃん

 マンホールに落っこちた誰かが地球の裏っかわの国で発見された。  咥えたばこの切り裂き魔が出るから今日から通りでの咥えたばこは禁止です。  物騒だったり不可思議だったり、僕の広場は話題で騒々しい。咥えたばこの通り魔か、間違えられてとっ捕まれば、少し名売りになるかもな。 「ママー、あの人なぁに」  賑やかな話題の乱射をかいくぐって、一個の声が僕を生き返らせる。その時寺院の鐘が鳴り、時計仕掛けの寸劇が始まった。ああ、あっちにとられるかなと、思ったけど。 「ねー、ママあの人、面白いねー」  お嬢ちゃん、花束をどうぞ、と、僕は心で呟いて、マイムの切れに油を注ぐ。ほらほら、みえないロープに引っ張られて、僕は何処へ。 「ママー、おじちゃん、上手だね、お鞄、浮いてるみたい」  今日は僕の口は汚くならないで済みそう。スッポリフードを被ったお嬢ちゃんの目は噴水の中で煌めくコインより透きとおって僕をみていた。さぁ、僕の一番得意なやつを、お嬢ちゃんにみせてあげる。  木になっている実を、ねじってもぎって、肘でキュッキュ。ハー、キュッキュ。真っ赤なリンゴが美味しそうだろう?  期待でいっぱいの顔、表情筋を鍛え過ぎて、何処がベースかすっかりわからなくなった僕の顔は常に表情であり続ける。  さぁ、いただきます。きっと、とっても、甘い。 「あーーー!!」  ピョンピョンとお嬢ちゃんが跳ぶ。顔はクチャクチャだ。酸っぱいリンゴは顔から汗が出るよな。僕も、本物は苦手さ。八百屋のおやじにだけは愛想よくしようなお互いに。  一緒にリンゴをかじってくれた子は、お嬢ちゃんが初めてさ。ハットにコインをくれて、お嬢ちゃんは僕の真似をしてみせる。僕の掌と、お嬢ちゃんの掌に壁が隔たっている。僕らの掌は触れなかった。  
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