第5章 彼女の空気になりたい

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第5章 彼女の空気になりたい

目の前のあり得ない光景に呆然となりながらも、俺の咄嗟の判断はあとで考えても充分賞賛ものだったと思う。 いくら人目がないとは言ってもこんな昼日中に注射器片手に女性を拉致しようとする男。頭が働くより先に脊髄反射で動いた。ポケットから出したスマホを二人に向けて彼らが反応するより早く何度もシャッターをタップしながら、これが月子さんの元旦那か、とようやく動き始めた脳が認識するのを感じていた。 普通に考えて、通りすがりの変質者がこんなもの仕込んで用意してるとは考えづらい。でもそれより何より。 うちのお父さん格好よくてもてるから、とやや誇らしげに言っていた悠斗。社会的地位があって世間での評価も高い、みたいなことを叔母から聞かされた。こいつの見た目はいかにもそんな感じだ。体格が良くて見栄えがする。顔立ちも整っていて悪くない。人前に出慣れてるのかどこか物怖じしない自信に満ち溢れた様子。尤も俺の方がものを知らないせいなのか、今まで見覚えのある顔じゃないが。 だけど、正直なところ。こいつが彼女を虐待してた張本人に間違いない、と俺の脊髄にインパクトを与えたのはその見かけより何より態度と全体の印象だった。     
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