第6章 期待してるわけじゃないけど

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第6章 期待してるわけじゃないけど

「…さとりちゃん!悟里ったら、もう。ちょっと待ってよってば」 ある日の午後、講義が終わったあとの大学の廊下。背後から迫力あるどたばた音が押し寄せてきてるな、って意識は漠然とあったけど。それが自分めがけての物体だとはかけらも想像してないからナチュラルにすっと左側の端に避けてやり過ごす体勢に入ってた。 なのにその勢いが俺の背中の真後ろでぱっと止まったと思うと。邪魔なのかな、と思って更に傍に寄ろうとする暇もなく飛び出した台詞と背中をばしんと叩く動作が例によって同時。心臓口から出ちゃうってば。俺は振り向きもせず文句を言った。 「あのさ。百回言ってると思うけど。相手の死角から他人に触れる時は声かけが先が鉄則だってば。身体が予測して身構えてるかどうかでダメージが違うって。何度言ったら伝わるかなぁ?」 苅田は素早く歩幅を合わせて俺の隣に並び、のうのうといつも通り悪びれず言い返してきた。 「さとりちゃんは細かいなぁ。声と触れるのとほとんど同時だったんだから、大して問題なくない?むしろ呼びかけが先だったって言っても過言じゃないでしょ、よく思い返してみて?」     
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