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世の中にたむろする戦士といえば、王侯貴族に使われる者を除けば、そのほとんどが、いわゆる“冒険者”を名乗っている。
だが、一皮剥いてしまえば、冒険者などは醜い性根を装備で覆い隠した、獣のような破落戸(ごろつき)に過ぎない。
そんな師の教えを思い返し、少女は星々が瞬く夜空を仰いだ。
――火精の指よ、舌よ、汝の獲物を捕らえ、喰らい尽くせ――
この男を焼き尽くした詠唱が自分の耳に木霊し、灼熱の鳥籠に囚われた男の末期の様が、脳裏に蘇る。
少女は、両手で顔を覆った。
男への怒りと憎悪。
そして悲しみと憤激に任せ、男を焼殺してしまった自分への嫌悪が、胸を捻り上げるように苛む。
だが彼女には、感傷に浸っている時間はなかった。
……自分には、使命がある。
その使命を遂行するためなら、どんなことでも……。
何度も首を振りつつ、彼女は地面から拾い上げた厚手の外套をふわりと羽織った。そして後を振り返ることもなく、彼女は街道へと向かった。
少女は行き交う者もない街道に立ち、はるか先まで見渡した。
街道は、広大な麦畑の只中を一直線に伸びている。
夜風にゆらゆら揺れる麦の穂は、月光を浴びてその青さを一層増して映る。
仄白くさえ見える小麦の海の彼方に、ひっそりと息づく村のシルエットが望める。
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