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第二章 酒場にて
一
再び街道を行くエルドレッドは、すぐ隣を歩くシオンに聞いてみた。
「そういえば、ここから一番近い村ってどこだっけ?」
「知らん。俺もこの辺りは初めてだ」
辺りに視線を巡らせつつ、シオンが無関心そうな調子で答える。
「かなり国境近くまで来ていると思うが、この地方は僻地だからな。何もしたくない今は、俺には丁度いい」
「セロモンテの街では大変だったみたいだからね、シオンは」
セロモンテとは、エルドレッドがシオンと初めて出会った都市だ。
その大きな都市で、シオンが何か苦難に遭っていたことは、エルドレッドも気が付いていた。
詳しい事情などエルドレッドには知る由もないが、何か只ならない出来事に関係していたらしく、大勢の追手に追跡されていたようだった。
「宿があれば、しばらく逗留しようよ」
エルドレッドは、シオンに気遣いの視線を送りつつ、さらに続ける。
「当分何もしないのも、シオンにはいいと思うよ。やっぱり何もしない時間っていうのも必要だからさ」
何を思っているのか、シオンは黙したまま答えない。
エルドレッドは苦笑めいた息を一つつき、街道の前方を指差した。
「あ、村が見えてきたよ」
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