第二章 酒場にて

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 エルドレッド自身、何か場違いな違和感を覚えたが、村人たちに驚く様子はない。  時おり奇異の視線は感じるものの、あからさまな悪意や敵意は、なさそうだ。    エルドレッドは、広場を何度も見回しながら、つぶやくように言う。 「あんまりじろじろ見られないね、この村。ノイラだっけ。田舎の村だと、“冒険者”って、結構変な目で見られるんだけど」 「そうだな」  軽くうなずいたシオンも、辺りに視線を配っている。  彼がまとう空気には、珍しく硬さが感じられない。  シオン的にも、この村は緊張を解ける場所だということらしい。 「この村は国境に近い。雑多な連中が来るんだろう。“冒険者”にも寛容なようだな」  『冒険者』とは、故郷を離れて放浪しつつ、行く先々で定住者の抱える問題を解決し、生計を立てる人々を指す。  目的や職能は、冒険者それぞれで異なるが、彼らは自らの技能のみを頼りに、日々を違う場所で暮らす。  一般の定住者からすれば、冒険者とは『時として頼りになる流れ者』ではあるが、おおむね『正業に就かない根無し草』だ。  特に辺鄙な農村や漁村など、村人のほとんどが正業についているような所では、冒険者が浴びる視線は、厳しく冷たい。     
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