143人が本棚に入れています
本棚に追加
だが、このノイラの村でエルドレッドたちが受ける眼差しに、そこまでの明らかな棘は感じられない。
恐らくこの村の人々は、シオンの言うとおり“冒険者”や“異邦人”を見慣れているのだろう。
そこまでぼんやりと考えたエルドレッドだったが、突然エルドレッドの腹がぐるぐると豪快な音を立てた。
夕べの風が、農村特有の豊かな土の匂いとともに、何か料理の香りを孕んでいる。
肉と脂の弾ける馥郁たる匂い。
エルドレッドの空腹に、悩ましげに突き刺さる。
「あ、ごめん……」
腹の虫に思考を邪魔されたエルドレッドは、つい一言洩らす。
シオンも小さくため息をついた。
「まずは腹ごしらえだな。宿は後だ」
二人が口を閉じると、風に乗って賑やかな声が聞こえてきた。
陽気に歌い騒ぐ男たちの、無秩序な混成合唱だ。
出所は、広場に面した一軒の小さな建物らしい。
エルドレッドとシオンはその喧噪の元、小さな酒場に足を向けた。
二人が酒場のドアをくぐるや否や、それまでの賑わいは、ぴたっと止んだ。
そして客たちの視線が、一斉に集まってくる。
思わずドアの前で棒立ちになったエルドレッドは、酒場中にぐるりと視線を巡らせた。
数脚の丸テーブルに二、三人ずつ陣取った男たちと、彼はいちいち視線をかちあわせる。
最初のコメントを投稿しよう!