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見たところ、木のジョッキやグラスを手にテーブルについた男たちは、皆この村の住民と思しい。
もちろん村人に喧嘩を売る気など、エルドレッドにはかけらもない。
だが、異郷に踏み込んだ疎外感と緊張感は、彼の表情を意図せずに硬くする。
一瞬の静寂が気まずい沈黙に変わりかけた時、先にカウンターについていたシオンが軽く相棒を呼んだ。
「エルドレッド、早く来い」
「あ、ああ。うん」
ハッと我に還ったエルドレッドは、安堵と気恥ずかしさを抱え、カウンターに急いだ。
同時に小さなこの酒場は、元通りの喧噪で溢れ返った。
カウンターに着いた彼を待っていたのは、シオンの呆れきった一瞥だった。
「お前は何をやっているんだ」
相棒の冷やかな視線を受けながら、赤面のエルドレッドは、わざとがたがたと大きな音を立て、無雑作にシオンの隣の丸椅子に腰を落とした。
「そ、そんなこと言ったって。知らない店に入るのは、どうも苦手なんだ。何年経っても慣れないよ」
背中の荷物を下ろしながら、正直にエルドレッドは告白する。
勇ましく剣など吊ってはいるものの、よそ者として入る店ではどうも気後れする。
戦士たるもの、時にはハッタリも必要なのだろうが、どうにもうまくはいかないエルドレッドだった。
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