143人が本棚に入れています
本棚に追加
頬杖のシオンが、彼に横目の視線を送りながら、ため息を洩らす。
「まあいい。お前はまだ若い。時間がかかるかも知れんが、いずれ慣れてくる」
エルドレッドに短く言葉を投げたシオンが、カウンターの向こうの主人に目を向けた。
エルドレッドも相棒の赤い視線を追うと、老齢の主人が立っている。
素朴な服に、白いエプロン。
ただ黙々と酒の瓶を磨く、渋い男だ。
そんな主人とエルドレッドと見比べて、シオンが軽く首を動かした。
冷淡で無感情な仕草だが、相棒の意図はハッキリしている。
うなずいたエルドレッドは、主人に声をかけた。
「おやじさん、ちょっといい?」
「ん? 何だ?」
髭も眉も髪も灰白色の主人が、聞き返してきた。
その表情はどこまでも穏やかで、浮かべる笑顔も愛想がいい。
何となく安心感を覚えつつ、エルドレッドは縛って転がした野盗のことを話した。
すると老齢の主人が、小さな苦笑を洩らす。
「おやおや、それは奇特なことだな」
そう言って肩をすくめた主人の態度は、感心半分呆れ半分、といったところだろうか。
主人はエルドレッドに素朴な笑みを見せる。
「夜盗連中は、後で村の若いもんにでも、拾いに行かせるか。村に来るまでの一仕事、ご苦労さん」
最初のコメントを投稿しよう!