第二章 酒場にて

6/31
前へ
/105ページ
次へ
 頬杖のシオンが、彼に横目の視線を送りながら、ため息を洩らす。 「まあいい。お前はまだ若い。時間がかかるかも知れんが、いずれ慣れてくる」  エルドレッドに短く言葉を投げたシオンが、カウンターの向こうの主人に目を向けた。  エルドレッドも相棒の赤い視線を追うと、老齢の主人が立っている。  素朴な服に、白いエプロン。  ただ黙々と酒の瓶を磨く、渋い男だ。  そんな主人とエルドレッドと見比べて、シオンが軽く首を動かした。  冷淡で無感情な仕草だが、相棒の意図はハッキリしている。  うなずいたエルドレッドは、主人に声をかけた。 「おやじさん、ちょっといい?」 「ん? 何だ?」  髭も眉も髪も灰白色の主人が、聞き返してきた。  その表情はどこまでも穏やかで、浮かべる笑顔も愛想がいい。  何となく安心感を覚えつつ、エルドレッドは縛って転がした野盗のことを話した。  すると老齢の主人が、小さな苦笑を洩らす。 「おやおや、それは奇特なことだな」  そう言って肩をすくめた主人の態度は、感心半分呆れ半分、といったところだろうか。  主人はエルドレッドに素朴な笑みを見せる。 「夜盗連中は、後で村の若いもんにでも、拾いに行かせるか。村に来るまでの一仕事、ご苦労さん」     
/105ページ

最初のコメントを投稿しよう!

143人が本棚に入れています
本棚に追加