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主人のあおり文句を聞いただけで、エルドレッドの胃袋が動いた。
口の中につばがとめどなく溢れてくるのが分かる。
しかし思わず生唾を呑み込む彼の横で、シオンが首を横に振った。
「俺には向かんな」
シオンが淡々とした調子で返しつつ、エルドレッドを示して見せる。
「そういう重いものは、こいつに食わせてやってくれ。戦士は体が元手だ」
「じゃ、シオンはいつもと同じか?」
エルドレッドは不意に心配になった。
シオンはいつも小食で、しかも同じものばかり食べている。
彼の不安が、一言の気遣いとなって口から洩れた。
「体、保つ?」
この村に来て初めて、シオンが微笑んだ。
彼が小さくうなずきながら、主人に視線を移す。
「肉はいい。パンとスープ、それに茹で卵が一つあればありがたい」
「ああ、分かった。ちょっと待っててくれな」
快く答え、カウンターの隅にある炊事台に移った主人だったが、ふと二人に目を向けた。
「お前さん方、どこから来なさったね? 探鉱師か?」
「セロモンテの街から来たんだ。他の街へ行く途中なんだけど、探鉱師じゃないよ。何で?」
エルドレッドが聞き返すと、主人は感心したように何度もうなずく。
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