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「じゃあ冒険者か。この村には、方々の国から探鉱師やら冒険者やらが結構来るからな。もっとも、最近はアープから来る連中は減ってるようだが。あの国はきな臭いって噂だが、詳しいことは知らんし、わしらには関係ない。どうせよその国だ」
「この村はまだ王国だっけ?」
エルドレッドが聞くと、主人はどこか誇らしげな表情を浮かべ、深くうなずいた。
「ああ。れっきとしたランデルスフィア王国領だ。王国の一番端っこではあるがな」
そこで主人は、二人を交互に見遣る。
「茹で卵もステーキもちょいと時間がかかる。今の内に壁を見とくといいぞ」
言いながら、主人は手にした包丁をちょっと揺らし、酒場の一隅を示して見せた。
エルドレッドが主人の視線をたどると、一面に紙が貼り付けられた壁に行き当たった。
「“伝言板”だよ。冒険者に好きに使わせているんだ」
実際、その壁の前には先客がいて、カウンターの方に背中を向けたまま、熱心に無数の壁紙を見回している。
好奇心をくすぐられたエルドレッドは、高い丸椅子から降りた。
「ちょっと見てくるよ」
「好きにしろ」
淡泊なシオンの返事を受けて、エルドレッドは一人壁に向かった。
飽くまで冷淡なシオンの様子に、主人が不思議そうに聞く。
「お前さんは見に行かんのか?」
「興味ないな」
即座に答えたシオンは小さな息を吐き、どこか悪戯な光を帯びた紅玉の瞳を向けた。
「それより一杯くれないか? 自慢の地酒とやらを、な」
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