第二章 酒場にて

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 予想もしない一言でいきなり先手を取られ、エルドレッドの顔が火を噴いた。  どう反応すればいいのか、エルドレッドには見当も付かない。  ただただ、かちこちに身を強張らせるばかりだった。 「あなた、戦士ね?」  どこか訛りのある若い美女は、エルドレッドに向き直った。  わずかに眦の下がった切れ長の目。  そのほとんどをアメジストの瞳が占めている。  奇妙な聖印が光る胸元には、地肌が覗く隙間はどこにもない。  だが、その大きく張り切った胸と、その上でくるっとカールした長い鬢の毛が、エルドレッドの目には余りに眩しい。  心ここに在らずの態で突っ立つエルドレッド。  そんな彼を楽しそうに眺めながら、女性がさらに聞いてくる。 「情報捜しみたいね。どう? 何かいいお話はある?」  “伝言板”に話題が移り、エルドレッドはふっと現実に還った。  ちょっぴり火照りの抜けた顔を軽く振りつつ、彼は足元に視線を落とした。  どうにも恥ずかしくて、女性を正視できない。 「うーん、まだ全部見てないんだけど」 「あら、そうなの。来たばかりなのね」  所在のなさを覚えた彼だが、片手で髪の毛をくしゃくしゃいじるより他に、思いつく動作がない。  そんな彼から、美女が壁に目を戻した。     
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