第二章 酒場にて

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二  訛りのない男の、直截すぎる恫喝。  エルドレッドが向き返ると、そこにはいかつい男が立っていた。    薄汚れた麻のシャツから、赤銅色に焼けた逞しい胸板が覗いて見える。  剥き出しになった両腕も並外れて太く、鋼色の両目はエルドレッドよりも結構高い位置にある。  顔立ちは決して悪くはないが、短いざんばら髪とまばらに生えた不精髭など、身なりには全く気を遣っていない。  乱雑な言葉も手伝って、はっきり言って損をしている。  三十がらみのこの男は、エルドレッドを睨み、凄んで見せた。 「マイムーナはオレの女だ! すっこんでな!」  ただし、吐く息は濃厚に酒が臭う。  一瞬、酒場の中がざわっとしたかと思うと、一転して水を打ったような静寂に包まれる。  が、そんな沈黙とは裏腹な、変に熱い煽るような視線が、男とエルドレッドに幾つも注がれる。  この男は、恐らくエルドレッドと同じ、“異邦人”の“冒険者”だ。  よそ者同士のケンカなど、村人からすれば変わった見世物か、そうでなかれば迷惑にしかならないだろう。  だが当のエルドレッドには、元々が下心などない。     
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