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ましてや、面白半分に騒ぎを起こす気も、毛頭ない。ここは素直に身を引こう、という彼だった。
しかしエルドレッドよりも先に口を開いたのは、美女の方だった。
マイムーナと呼ばれたこの美女は、屈強なこの男を見上げ、不満そうな口調で反抗する。
「あら、勝手に決めないでよ。あたしは、あたしを必要とするひと全てのものよ。クライフ、あなたも含めてね。もちろん、このぼうやも例外じゃないわ。分かってるでしょ?」
「は?」
美女マイムーナの謎めいた言葉に、エルドレッドは一言洩らした。
だが、美女の意図などエルドレッドには見当も付かず、二の句が告げない。
そんな立ち尽くすばかりのエルドレッドを、クライフというこの男が馬鹿にした目付きで見下ろす。
「ふん、こんな小僧に何ができるってんだ。おめえの力なんか、貸すだけムダだ」
「あなた、酔ってるわね? 外で涼んできたら?」
どこか棘のある流し目に乗せてマイムーナが言うと、男はまた大声を上げた。
「うるせえな! オレは酔ってなんかいねえ!」
そう美女に返し、クライフがエルドレッドに座り気味の視線を戻した。
そしてふふん、と鼻で嘲笑い、エルドレッドに酒の臭いに満ちた罵声を浴びせてくる。
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