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いきなり放たれたマイムーナの無邪気な一声が、一瞬エルドレッドとクライフの気勢を殺ぎ落とした。
が、ほんのわずかの差で、先にエルドレッドが我に還った。
「あれ、シオン」
「何だと!?」
シオンの名を耳にして、遅れて正気に戻ったクライフ。
目を見開いた彼が、まじまじとシオンを見つめる。
空の両手を自然に下げた何気ない姿勢で立つシオンだが、彼のどこにも隙らしい隙はない。
静かにクライフを見返す真紅の瞳も、無感情に徹している。
しかし、シオンが纏う異様に澄みきった気迫が、周囲の温度を下げている。
そんな白い青年を前にして、クライフの顔色が変わった。
今まで赤かった顔は血の気が退き、蒼黒くなっている。
わずかに震える唇で、彼がたった一言の問いをシオンに投げた。
「おめえ、あの“白い蜂”か?」
「さあな」
シオンの投げ遣りな答えを聞き、クライフの強情そうな口許が歪んだ。
その苦りきった表情からは、目一杯の後悔が読み取れる。
数秒の空白の後に、クライフが低く呻いた。
「いや、オレが悪かった」
クライフが二人に詫びを入れた。
その口調は、これまでとはうって変わって謙虚で、妙に潔い。
「おめえさんが認めた小僧だ。オレがとやかく言うこっちゃなかったな。すまなかった」
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