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エルドレッドも、全く意に介さない顔でうなずいて見せる。
相手は非を認めて詫びているのだし、これ以上責めるのも何だか気が引けるエルドレッドだった。
「俺は別にいいんだけど」
「すまん」
もう一言侘びを重ね、クライフは早足に酒場から出ていった。
「なあに? だらしないこと」
気抜けしたようにつぶやいて、酒場に残った美女マイムーナは小さく息をついた。
この言葉を合図にしたように、強張った酒場の空気は砕け散り、客たちの間に談笑が戻った。
何とか場の収まったのを見て取り、ホッと安堵の息を吐いたエルドレッド。
ふとマイムーナを見ると、彼女は綺麗な白い片手を腰に当て、酒場のドアを見つめている。
そのアメジストの瞳には、失笑に近い色が浮かぶ。
マイムーナの態度を何となく不思議に思い、エルドレッドは聞いてみた。
「追いかけなくていいのか?」
すると彼女は、手の甲を口許に当てて軽く笑った。
「いいのよ、放っておけば。どうせ行き場所は金牛亭しかないんだから」
軽くうそぶいたマイムーナが、エルドレッドとシオンを交互に見比べる。
心底楽しげに菫色の瞳を煌めかせ、口許を綻ばせて二人に聞く。
「それより、せっかくだから、ご一緒してもいいかしら? ご迷惑なら、遠慮するけれど」
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