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訳が分からず、目を白黒させるばかりのエルドレッドは、黙ってカウンターに手を掛けた。
そんな彼を見ながら、主人が大きなため息をつく。
「あれだけのいい女には、こんな田舎じゃなくとも、なかなか会えんもんだが、もったいないなあ。絶対わしの勝ちだと思ったんだが」
「生憎だな。こいつはそこまで器用じゃない」
シオンは、ふっと笑って、カウンターのグラスに手を延ばした。
クリスタルガラスのタンブラーは、輝くばかりの琥珀の酒で満たされている。
「言い訳は無用だ。この一杯は親仁の奢りだからな」
「まあ仕方ないな」
残念そうに苦笑を洩らす主人と、飽くまで飄々とにグラスを傾けるシオンとを何度も見比べて、エルドレッドは聞いてみた。
「何の話なんだ?」
黙したままのシオンに代わって、主人がにやにやしながら答える。
「ちょっと賭けてみたんだ。お前さんがあのいい女を連れてくるかどうか、ってな」
主人は、羨望と批難とが入り交じった複雑な表情でエルドレッドを流し見る。
「わしなら絶対、逃がさないところなんだが。全くもったいない男だなあ、お前さんは。ウブにも程があるぞ」
「そんな賭けをしてたのか!? 人をだしにして!」
さすがのエルドレッドも、ちょっぴりカチンときた。
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