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気恥ずかしさと、言いようのない悔しさに、頬が熱くなるのが分かる。
膨れっ面を作って、エルドレッドはがたんとカウンターに腰を落とした。
最後まで抜かれなかった剣が、止まり木を打って耳障りな音を立てる。
ふてくされ、投げ遣りに頬杖をつくエルドレッド見て、主人が年季の入った愛想笑いで宥めた。
「そう気を悪くしないでくれ。ほうら、ステーキだぞ」
戯け半分にそう言って、主人は熱々に焼けた鉄板をエルドレッドの目の前にどん、と置いた。
ぴちぴちと脂がはねるステーキ皿の真ん中に、巨大な骨付の肉塊がじゅうじゅうと音を立てて鎮座している。
ステーキに焼き付いた鮮やかな網目と芳醇な香りが、エルドレッドの空き腹を強烈に刺戟する。
主人が自慢げに胸を張る。
「こんな生肉のステーキ、よその村では食えないご馳走なんだからな」
そんな迫力のステーキを横目に見ながら、エルドレッドはさらに不満をこぼす。
「いくら俺が単純だからって、食べ物につられるほど単純じゃないよ」
口ではそう言った彼だったが、残念ながら腹の虫は黙っていなかった。
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