143人が本棚に入れています
本棚に追加
/105ページ
どうしてそんなことを言うのか、彼は疑問に満ちた鳶色の視線を主人に注ぐ。
その主人は、エルドレッドの顔を真っ直ぐに見ながら、ゆっくりと話し始めた。
「あの岩山は、昔、宝石鉱山だった。それはいい宝石が採れたもんだ。だがいつの頃からか、魔物が棲み付いてな」
「魔物?」
「ああ、そうだ」
主人が一瞬エルドレッドから目を外し、虚空に言葉を綴る。
「まだわしが子供の時分だから、数十年は前か。それ以来、あの鉱洞は見捨てられたままだ。鉱夫たちもみんな去って、鉱山の周りにあった鉱夫小屋も残らず放棄された。この村が寂れ
たのもそれからだ」
そこで主人は、小さくため息をついた。
懐かしげに彼方を見つめ、主人は深く吐息をつく。
「が、それでも、あの鉱洞に入る冒険者は跡を断たんかった。魔物を倒せば宝石と栄誉、両方を手に入れることができるからな。しかし鉱洞に入って、戻った者はまだおらん。それでとうとう、誰も岩山には近付かんようになった」
主人の昔話に黙々と耳を傾けたエルドレッドは、試しに聞いてみた。
「魔物って、どんなやつ?」
しかし主人は、首を横に振るばかり。
「わしは知らん。誰も知りはせんだろ。わしが知る限り、鉱洞から戻った者もおらんし、この村の者は誰もあの鉱山には近寄らん」
最初のコメントを投稿しよう!