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第一章 戦士エルドレッド
一
黄昏。
広大な麦畑の彼方に、真円の日輪が沈んでゆく。
巣に戻る鳥たちが白雲をかすめるように翔び、大地を渡る風は碧色の麦穂をゆらゆらと揺らす。
長閑で平和な、農村の夕べだ。
今はもう、麦畑には農夫の姿はない。一日のわざをすべて終え、家族が待つ家に帰ったのだろう。
だが広大な麦の海を両断する街道に、長い影が二つ並ぶ。
どちらの形も、農夫とは程遠い。
一人は盾と剣、それに半身鎧で武装した少年。
年は十六、七というところだろうか。亜麻色の柔らかな髪が、そよ風に揺れている。
もう一人は、反り身の剣を左手に提げ、薄汚れたザックを右肩に掛けた身軽な旅装の青年。
剣を握る左の手首には、小さな環の付いた銀色のリストバンドが光る。
「やっと人里に出たね」
傷だらけの半身鎧に身を包んだ少年は、心底から安堵の息をついた。
彼は背中の丸盾とナップサックを負い直し、傍らの青年に鳶色の瞳を向ける。
「そうだな」
短く返した青年の衣服、それに肌も髪も泥や塵で汚れているが、本来はその肌も髪も純白だと思しい。
さらに通った鼻筋といい、切れ長の双眸といい、人間離れした美貌の持ち主だ。
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