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エルドレッドが目を白黒させて聞き返すと、主人は宿帳を出しながら答える。
「あんたのお連れさんから聞いてる。あんたと相部屋だってことで、部屋は二階の二号室だよ。とりあえず、名前を書いてくれ」
主人の求めるまま、エルドレッドは宿帳に名前を記す。
チラリと宿帳を盗み見ると、『ファン・ヴェスパ』と名前が書かれている。
表向きにシオンが使う継承名だ。
エルドレッドからペンを受け取りながら、主人は何気ない調子で聞く。
「あんたのお連れさん、“人間(ホムス)”じゃないみたいだな?」
「そうだね。でも“異人(デモス)”がそんなに珍しい?」
エルドレッドは、ほんのちょっぴりの反感を覚え、相棒を庇うつもりで切り返した。
すると主人は、肩をすくめた。
どこか自嘲的な調子ながら、厭味なく小さく笑う。
「いや、全然。人間以外の“異人(デモス)”は、私ら“人間(ホムス)”と比べりゃ少数派だが、この村では時々見かけるよ。気にしないでくれ」
そう答えた主人には、特に取り繕うような様子も見せない。
宿帳を収め、主人がにこりと笑う。
「それじゃ、ごゆっくり」
短く告げて、宿の主人はカウンター奥の部屋に消えた。
ゆらゆら揺れる小さな灯火の下、独り取り残されたエルドレッドは、改めてロビーを見回した。
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