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椅子とテーブルがしつらえられたロビーの片隅に、二階への階段と、二枚の扉が見えている。
エルドレッドは、二階にあるシオンの部屋に行く前に、一枚のドアの前に立った。
そのドアには、『一』と刻まれた札が下がっている。
あの張り紙の主が泊まっている部屋に違いない。
ほんのわずかの躊躇を容れて、エルドレッドはドアを小さくノックした。
が、反応はない。
「まだまだ時間はあると思うんだけどな」
そうつぶやいた彼がドアに背中を向けた時、背後で小さく音がした。
振り向くと、扉が少し開いている。
そして、その細く暗い隙間から覗くのは、一つの緑色の目。
エルドレッドの目線よりもずっと下にあるその目は、瞬きもせずにじっと彼を見つめている。
どう対処していいものか、エルドレッドには、すぐには判断できない。
何秒かの迷いの後、彼は髪をくしゃくしゃやりながら、こう切り出した。
「酒場の張り紙を見たんだけど、あれを張った依頼人って」
と、そこで彼の言葉を遮るように、いきなりドアがぱたんと閉った。
「あ……?」
エルドレッドは一人うなだれた。
どうしようもない虚無感の中、是非なく取り残された彼はわざと口に出してつぶやいた。
「……何なんだろう、一体」
宙ぶらりんの気持ちのやり場が、なかなか見つけられない。
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